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「膝の軟骨って再生するの?」という疑問をお持ちではありませんか? 「膝が痛いのは、軟骨がすり減っているから」そう聞いたことがある方も多いでしょう。ネットを見る限り「再生しない」が有力に思えるけど、「再生する」という意見も……。
「一体どっちなの!?」と思っているあなた。その疑問は今日、解消されます。膝の専門医が本当のところを解説。さらに、軟骨再生や痛みの解消で、現在受けられる医療がどこまで進んでいるのか、お話しします。これを読めば、あなたの膝痛治療の選択肢もきっと広がるはずです!
膝軟骨は、自然に再生しない。でも……
結論からお伝えすると、一度すり減ってしまった膝軟骨が自然に再生することは、残念ながらありません。それは、軟骨にほとんど血流がないため。通常のけがであれば、時間とともに傷や痛みが治まることも多いでしょう。これは自然治癒力によるもので、血液に含まれる成分が自然治癒を助けているからです。
それでは、治療した場合はどうでしょう。残念ながら、それでも軟骨は再生しません。中には再生医療という選択肢もありますが、これは後ほどご紹介するとして、まずは一般的な治療で軟骨が再生しないということについて、理解しておきましょう。
治療目的は膝軟骨の再生ではなく、痛みの緩和
実は、整形外科で提供・推奨されている一般的な治療法は、痛みに対するもの。なぜなら膝の痛みは、損傷した軟骨ではなく、別のところで起こっているからです。
膝軟骨のすり減りと痛みの関係
代表的な膝の軟骨は、硝子軟骨(しょうしなんこつ)や半月板(はんげつばん)。これらは太ももの大腿骨(だいたいこつ)と、すねの脛骨(けいこつ)の継ぎ目にあり、外からの衝撃を吸収したり、動きを滑らかにしたりする役割を果たしています。しかし、膝関節は身体の中でも特に大きな負担がかかる部位。硝子軟骨や半月板は加齢で衰えたり、筋力の低下で膝への負荷が増えたり、衝撃が繰り返されたりすることで徐々にすり減っていきます。この刺激によって、関節を包んでいる滑膜が炎症を起こし、膝に痛みを感じるようになるのです。
その代表的な疾患に、変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)や半月板(はんげつばん)損傷があります。
変形性膝関節症
体重の増加、加齢による筋力の衰えなどが原因となって脚への負担が増大すると、硝子軟骨はすり減ることがあります。そうして徐々に硝子軟骨が消失すると、大腿骨と脛骨が直接ぶつかり合い、痛みを伴いながら膝関節が変形。これが、変形性膝関節症です。
進行性で、末期になると膝関節が完全に変形し、歩行が困難になることもある恐ろしい疾患です。なぜこの疾患を例示したかというと、潜在的な患者を含め、2500万人の日本人が患っているとされているから。膝の軟骨がすり減ることで発症する代表的な疾患であると言えます。
半月板損傷
半月板とは、アルファベットの「C」のような形をした軟骨のことで、膝関節の内側と外側に一つずつ存在します。スポーツの際に過度な負担がかかって受傷したり、膝を捻った際に靭帯の損傷と併発したりするケースが多いですが、加齢によってすり減ることも。放置しておくと半月板は消失し、変形性膝関節症につながる恐れもあります。
半月板は、その外側であればわずかに血流がありますが、内側はほとんど血流がありません。そのため、損傷したりすり減ったりすると、治療が難しくなるケースも。
各治療法の本当の作用と目的
変形性膝関節症や半月板損傷に対しては、下記のような治療法が一般的です。ネットでは「膝軟骨が再生する」という声もチラホラ。でも、実際は膝軟骨の再生を目的としたものではなく、痛みを抑えるための対症療法なのです。
安静にする
激しい運動や脚への過度な負担を避け、症状のさらなる悪化を防ぐものです。「安静にしていれば治ると医師に言われた」という声を聞くことがありますが、痛みが落ち着くことはあっても、軟骨が再生されることはありません。
筋トレやストレッチなどの運動
膝周辺の筋肉を鍛えたりほぐしたりすることで、膝関節へかかる負担をカバーするのが目的。痛みの軽減には期待できますが、軟骨が再生するという医学的な根拠はないのが実情です。
内服薬の投与
主にNSAIDs(エヌセイズ)と呼ばれる非ステロイド性抗炎症薬が処方されます。その名の通り、作用は「抗炎症」。そもそも膝軟骨の再生が目的ではありません。
ヒアルロン酸注射
軟骨の保護や関節の潤滑を目的としていて、膝関節の動きをサポートする補助的な治療法。膝関節内に直接注射することで、膝の滑りを良くしたり、膝にかかる負担を軽くしたりする作用なら期待できます。
ステロイド注射
優れた消炎鎮痛作用を持っています。NSAIDsの投与や、ヒアルロン酸注射で十分な効果が得られないときに行われることが多いでしょう。もちろん、軟骨ではなく、炎症に対する治療法です。
サプリメント
グルコサミンやコンドロイチンなどが、骨に大切な成分であることには間違いありません。しかし、そうした成分を経口摂取しても分解されてしまうため、膝に届く可能性は低いでしょう。医学的にも、軟骨を修復させる効果はもちろん、骨を強くしたり、膝の炎症や痛みを抑えたりする効果も認められていません。痛みが緩和されたように感じるのは、プラセボ効果によるものだと言われています。
【出典】
※「Wandel S, et al. Effects of glucosamine, chondroitin, or placebo in patients with osteoarthritis of hip or knee: network meta-analysis.」 BMJ. 2010
「膝軟骨を増やして戻す」発想の再生医療
10年ほど前までは、こうした一般的な治療法しかありませんでしたが、今では再生医療という手段もあります。再生医療とは、患者自身の細胞や組織を用いて、損傷した臓器の機能を修復したり、再生したりする医療のこと。
研究段階というイメージが強いかもしれませんが、既に提供されている治療法もあるのです。富士フイルムによる再生医療のテレビCMを見たことがある、という方もいらっしゃるかもしれませんね。
自家培養軟骨移植術
自身の軟骨を採取して増やし、ダメージを負った軟骨へ移植するのが、自家培養軟骨移植術(じかばいようなんこついしょくじゅつ)という再生医療。意外かもしれませんが、これは保険適用になっている治療法です。
自分の膝関節の軟骨細胞を使用するため、拒絶反応は極めて少なく、広範囲の欠損にも有効。痛みが軽減できたという効果も確認されており、治験データでは約9割の人に症状の緩和が見られました(※)。
ただしこの治療は、スポーツや事故などで軟骨を損傷する外傷性軟骨欠損症や、軟骨がはがれ落ちる離断性骨軟骨炎という疾患で、かつ4㎠ 以上、軟骨が欠損しているケースが対象。変形性膝関節症と診断されている場合、この再生医療を受けることはできません。
【参考文献】
Tohyama H, Yasuda K, Minami A et al:Atelocollagen-associated autologous chondrocyte implantation for the repair of chondral defects of the knee : a prospective multicenter clinical trial in Japan.J Orthop Sci 14:579-588(2009)
軟骨細胞シート
患者自身の軟骨から健康な組織を採取し、細胞シートを作製。このシートは、細胞表面にあるタンパク質など、軟骨再生に必要な成分を有しています。これを軟骨が欠損した部分に貼る(移植する)ことで、軟骨の本来の機能を取り戻すことが期待できるという、画期的な治療法です。将来的には変形性膝関節症の根治的な治療を目指し、研究が進められています。
【参考文献】
東海大学「関節治療を加速する細胞シートによる再生医療の実現」
セルシード「軟骨再生」
変形性膝関節症に適用可能な再生医療はある?
先ほどの自家培養軟骨移植術は、変形性膝関節症が治療対象外、細胞シートは目下、研究中。では、変形性膝関節症に対して、すでに実施されている再生医療はないのでしょうか? いえ、あります。PRP療法や脂肪幹細胞治療、培養幹細胞治療といった再生医療は、変形性膝関節症と診断されていても受けることが可能。従来の保存療法と人工関節などの手術療法との間を埋める治療として、徐々に広まりつつあります。
PRP療法
靭帯損傷や肉離れといったけがの受傷後、早期にスポーツへの復帰ができることから、野球の大谷翔平投手や田中将大投手などがPRP療法を受けて話題になりましたよね。
PRPとは、Platelet-Rich Plasmaの略語で、多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう)を意味します。血液中の血漿が固まる際、様々な成長因子が放出されます。この成長因子によって、身体が元々備えている自然な治癒反応が促進されることが分かってきました。これを利用した治療法が、近年注目を浴びているPRP療法。変形性膝関節症の治療にも用いられ、良好な結果を得られたという報告もあります。
【参考文献】
「変形性膝関節症に対する多血小板血漿関節内注射治療」吉岡友和ほか 整・災害 57: 91001-1009; 2014
「Infrapatellar fat pad-derived mesenchymal stem cell therapy for knee osteoarthritis.」Koh Y-G, Choi Y-J. Knee. 2012;19(6):902-907.
脂肪幹細胞治療
脂肪には、再生医療において重要な役割を果たす細胞が含まれています。それが幹細胞(かんさいぼう)。自分の脂肪組織から、脂肪幹細胞を含む「SVF」という細胞群を抽出し、膝関節内に注射する治療法です。変形性膝関節症の治療法としても、国内外の医療機関で研究が重ねられており、抗炎症作用や疼痛抑制作用が確認されています。
培養幹細胞治療
関節に注入する脂肪幹細胞をたくさん得るためにお腹や太ももから多くの脂肪を摂取すると、そのぶん身体への負担が大きくなります。高齢者や細身の体型の方だと、受けられないのではないかと心配されるかもしれません。その場合、少量の細胞を専門の細胞加工施設で増殖させて膝に注入する、培養幹細胞(ばいようかんさいぼう)治療という手法もあります。
再生医療の登場で、変形性膝関節症の治療に希望が!
膝軟骨が自然に再生することはない、と聞くと、「では、この膝の痛みはもう治らないのかな」と諦めてしまうかもしれません。確かに、変形性膝関節症に対して適応可能な再生医療でも、軟骨を再生させる効果をはっきり示すような報告はまだ得られていません。しかし、膝の痛みが改善されたという事例は多数。ご紹介したものの他にも多くの研究が進められています。今後スピードアップも予測される再生医療に、期待が膨らみます。
【参考文献】
「Clinical results and second-look arthroscopic findings after treatment with adipose derived stem cells for knee osteoarthritis.」Koh Y-G, Choi Y-J, Kwon S-K, Kim Y-S, Yeo J-E. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2015;23(5):1308-1316.