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人工関節を検討しているけど、合併症である「感染」のリスクが不安……。という方、多いのではないでしょうか? もしくは「人工関節を入れたところの調子が悪いかも! これって感染?」そう疑っている方、いませんか?
この記事では、人工関節の感染がどのようなものなのかお伝えするとともに、その予防法と、もし感染してしまった場合の治療法なども詳しく解説。これを読めば、術後に対して抱く不安を解消できるはずです。感染してしまったかもしれないという方も、早めに治療法を確認するために今すぐチェックしてみましょう!
人工関節の感染とは
膝関節や股関節などにインプラントとして入れた人工関節が感染を起こしてしまうこと。正しくは人工関節周囲感染(PJI※)と言います。重度になると、周囲の骨が溶け出して、ゆるみに繋がる危険性も。そのような場合、人工関節を抜去(取り外すこと)して感染が治癒するのを待ち、再度つけ直す手術(再置換)が必要となります。
※Prosthetic Joint Infectionの略語
こちらの表を見ると、再置換の原因として人工関節のゆるみ(loosening)に次いで多いのが感染。注意すべきものであるということがお分かりいただけるでしょう。人工関節の感染には、大きく分けて早期感染と遅発性感染(ちはつせいかんせん)の2つがあります。
早期感染
早期感染とは、人工関節を入れる手術後の早い段階で感染を起こすことです。切開した部分から感染することが多いとされています。
早期感染による症状
- 熱感……患部が熱を持ちます。
- 痛み……患部に痛みが生じます。
- 赤み……患部に発赤が見られます。
- 腫れ……患部に水がたまり、ブヨブヨと腫れます。
遅発性感染
手術の半年以降に細菌感染を起こすのが、遅発性感染です。切開した部分とは別の感染経路が多いとされています。
遅発性感染による症状
遅発性感染の症状も、早期感染と同様です。しかし、それらに加えて全身性の発熱やショックなどが起こることがあり、これらは重篤な症状であると言えます。
人工関節が感染しやすい理由と原因
人工関節は、その名の通り人工物。身体の組織が本来持つ防衛反応(ウイルスや他の異物から身体を守る反応)が届きません。そのため免疫が弱くなり、感染を起こしやすいのです。
原因菌の多くはブドウ球菌
自然界には様々な細菌が存在します。人工関節の感染でも色々な菌が原因となり得ますが、特に問題となるのがブドウ球菌。これは健康な人でも保有していることの多い常在菌ですが、免疫力が下がると感染してしまうことがあります。防衛反応が働かない人工関節は、通常より感染のリスクが高くなるのです。
また、ブドウ球菌の中でも、MRSAやMRSEと呼ばれる種類は多剤耐性菌(複数の抗生剤に耐性がある)と呼ばれ、特に注意が必要とされています。
感染のきっかけ
次のようなことがきっかけとなって、人工関節が感染を起こすことが多いでしょう。
外傷
擦り傷から細菌が侵入し、血液を経由して感染を引き起すことがあります。
内科的感染
肺炎や尿路感染、血管にカテーテルを使ったことなどにより、血液を介して細菌感染を起こすことがあります。
免疫不全を起こす疾患
エイズやガンなど、免疫に異常をもたらす疾患によって免疫力が低下し、細菌感染してしまう可能性があります。
内臓疾患
糖尿病や肝機能障害といった臓器の疾患が原因となることがあります。
感染予防で病院がすること
手術中から直後にかけての細菌感染を防ぐため、病院では次のようなことに配慮して手術が行われています。
手術前の感染症検査
手術を受ける前に、鼻腔(鼻の奥で広くなっている部分)に細菌がついているかどうか、保有状況を検査することがあります。細菌が発見された場合、抗生剤の軟膏を鼻腔に塗布することで人工関節の感染を予防できたとする報告もあります。発見された細菌が多剤耐性のあるブドウ球菌であっても、バンコマイシンなどの抗生剤を投与することで対処可能です。
【参考文献】
「術前鼻腔MRSA除菌処置の人工股・膝関節術後感染予防の有効性の検討」清水孝典、小柳淳一朗、西井孝
クリーンルームの使用
手術中や手術直後の細菌感染を防ぐため、手術はクリーンルームという、空気清浄度が確保された手術室で行われます。
抗生剤の術中投与
感染の可能性を下げるため、多剤耐性菌にも効果のあるバンコマイシンを手術中に局所投与する、といった対策を取る病院もあります。
感染予防のために自分でもできること
場合によってはインプラントを取り外しての再置換が必要になる、人工関節の感染。怖いイメージを持ってしまいますが、人工関節の感染を予防するために自分でもできることはあります。
術前・術後それぞれのタイミングで次のようなことを意識すれば、感染のリスクはぐんと下がるでしょう。特に手術後に注意すべきことが多いです。
手術前
虫歯や水虫を治しておく
直接的な原因とは断言できませんが、血液を介して細菌が人工関節に感染する可能性があります。そのため、手術を受ける前に、虫歯や水虫などは治療しておくのがよいでしょう。
手術後
病院で治療を受けるときは抗生剤の予防投与を相談する
病院やクリニックなどで受ける治療(医療行為)によって、細菌感染を起こす可能性が考えられます。歯科医での治療や、内科での注射などが代表例。抗生剤の予防投与を行ったほうがよい場合もあるため、そうした医療行為を受ける前には、その病院やクリニックの医師に相談するようにしてください。
鍼治療を控える
器具を皮膚に刺すという治療の性質上、細菌が入り込む可能性は否定できません。ですから、膝以外の部位であっても、鍼治療は控えるのが賢明です。
虫歯や水虫に注意する
術前から引き続き注意しましょう。
定期的に検診を受ける
定期検診で人工関節への感染が見つかることもあります。ゆるみや脱臼のチェックはもちろん、感染の予防や早期治療のためにも、定期的な検診は大切です。
人工関節の感染が疑われる場合の検査手順
お伝えしたように予防を実践しても、残念ながら人工関節が感染してしまうことがあるかもしれません。先にご紹介したような症状があり感染が疑われる場合、次のような流れで検査を行います。
①触診・画像検査
人工関節の周囲に水がたまっているかどうかを、触診と画像検査により確認します。術後、数ヶ月以上が経過しているにも関わらず水がたまっている場合は、感染の可能性があります。
②水を抜いて細菌を培養
水とは、正確には膿(うみ)のことで、細菌感染によってできたものです。この膿を注射器で抜き、存在する細菌を特定します。
③細菌の抗生剤の感受性を検査
見つかった細菌に効果のある抗生剤を調べます。
人工関節が感染したときの治療方法
人工関節が感染していると診断された場合、一刻も早く治療を始めなければなりません。治療方法を決定する指標として、原因菌が多剤耐性菌であるか否かだけでなく、原因菌が到達している深さが重要となります。
表面のみ感染している場合
感染が人工関節の表面(皮下の浅い部分)のみなら、原因菌が多剤耐性のあるブドウ球菌であっても、抗生剤の投与と洗浄で対応可能なケースがあります。この段階で治療を行えば、人工関節を抜去せず温存できることも。迅速な対応が重要です。
皮下の深部まで感染している場合
原因菌の種類に関係なく、皮下の深部、すなわち人工関節まで感染が到達してしまうと、治療は難しくなります。細菌が自らの周囲にバイオフィルムという膜を作り出し、抗生剤の効果が届かなくなってしまうのが原因。この場合、骨髄炎も起こしていることがあり重篤です。
このような場合は人工関節を抜去し、再置換をしなければなりません。再置換には一期的再置換と二期的再置換があり、体調や病態を考慮して決定します。
一期的再置換
人工関節の抜去と再置換を同時に行う方法で、二期的再置換よりも長い手術となります。
二期的再置換
人工関節の抜去と再置換を2回に分けて行うことです。まず人工関節を抜去し、そこへ抗生剤を含んだセメントビーズやセメントスペーサー(骨セメント)を埋め込みます。そうして感染が落ち着くまで待機した後、人工関節を再置換するという方法です。待機期間は自力歩行ができないため、車椅子での生活になります。
安心して手術を受けるために
人工関節の再置換が必要となることもある、感染というリスク。再置換を一度行うと、初回手術よりも違和感や他の合併症が生じやすくなります。ただ、実は人工関節に感染が起きる可能性は0.5%〜1%程度(※)と、決して頻繁に発生しているものではありません。過度に心配する必要はありませんが、リスクとして存在するのは事実。手術前に細菌の保有検査を受ける、虫歯の治療を行っておく、手術後には鍼治療を控える、など、感染しないための準備や注意は必要です。
【出典】相原病院 人工関節センター