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膝の痛みで病院に行ったら、医師に「関節が炎症してますね」と言われた。そんな人はいませんか? ただ、関節炎と言っても原因は様々。もしかしたら恐ろしい疾患につながっているかも……。
この記事では、関節炎の仕組みや考えられる原因を解説した上で、膝に関節炎を引き起こす疾患の中でも特に注意が必要な「変形性膝関節症」をピックアップ。変形性膝関節症を治療するにあたっての疑問を解消すべく、治療の目的やポイントをまとめました。膝の関節炎と言われた人も、そうかもしれないと疑っている人も、正しく治療するために今すぐチェックしてみましょう!
膝の「関節炎」とは?
関節炎とは、文字通り関節に炎症が起きることです。まず炎症の仕組みを解説した上で、膝関節に炎症が起きる原因となる疾患やけがを見て行きましょう。
膝の関節炎と痛みの関係
炎症とは、組織を修復するために身体が起こしている反応のこと。膝の炎症というケースでは、膝関節内に何らかの異常が起きて組織が損傷し、それを修復するための反応として炎症が起きていると考えられます。その炎症によって神経が刺激されることで、痛みが生じるのです。
実は「軟骨がすり減って痛む」は間違い
「膝が痛むのは軟骨がすり減るから」と思っている人が多いかもしれませんが、痛みの神経は、軟骨には通っていないため、実は間違っています。すり減った軟骨の欠片が膝関節内にある滑膜(かつまく)を刺激するから、というのが正解です。
膝に関節炎を引き起こす疾患・けが
では、膝に関節炎が起きる原因にはどのようなものがあるのでしょうか。考えられるものをそれぞれ見ていきましょう。
変形性膝関節症
膝関節に炎症が起きる原因は様々ですが、中でも特に注意が必要なのが、変形性膝関節症。そのため、この疾患については後に詳しく解説します(膝の関節炎で特に要注意「変形性膝関節症」)。
靭帯損傷・断裂
膝を支える靭帯は4つ。関節内にあるのが前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)と後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)で、関節外にあるのが内側側副靭帯(ないそくそくふくじんたい)と外側側副靭帯(がいそくそくふくじんたい)です。
これらの靭帯の損傷や断裂はスポーツでの接触や着地、交通事故の際に起きることが多く、複数の靭帯を同時に損傷するケースも。激しく損傷した靭帯からは、出血して関節内に血液がたまったり、炎症を起こして激しい痛みに襲われたりします。
前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい:ACL)
太ももの大腿骨に対して、すねの脛骨が前にずれないようにする靭帯です。脛骨の上端が前方の内側方向に入る強い力が加わることで損傷します。スポーツなどで急にストップしたり、方向転換したりしたときの受傷が多いです。
後十字靭帯(こうじゅうじじんたい:PCL)
大腿骨に対して、脛骨が後ろにずれないようにする靭帯です。膝の前方から、膝の後方へ向けて強い力が加わることで損傷します。転倒により膝を強打して受傷することが多いです。
内側側副靭帯(ないそくそくふくじんたい:MCL)
大腿骨に対して、脛骨が身体の内側にずれないようにする靭帯です。膝にある靭帯の中で最も損傷頻度が高く、膝の外側から内側へ強い力が加わることが受傷の原因となります。
外側側副靭帯(がいそくそくふくじんたい:LCL)
大腿骨に対して、脛骨が身体の外側にずれないようにする靭帯です。膝の内側から外側へ向けて強い力が加わることで損傷します。外側側副靭帯を単独で損傷することはほとんどありません。
半月板損傷
半月板(はんげつばん)とは膝関節にある軟骨で、膝のスムーズな動きを助ける役割を担っています。スポーツ時に膝を捻る、交通事故で大きな衝撃が加わる、といったことが受傷の原因となることが多く、靭帯損傷と合併するケースも。また、半月板は加齢によって変性を起こすこともあり、小さな外力でも損傷しやすくなります。
すり減った軟骨の欠片が膝関節の滑膜を刺激すると、膝に痛みが生じます。また、膝に何かが引っかかったようになるキャッチング現象、膝が動かなくなるロッキング現象など、様々な症状が現れるのも特徴。関節内の炎症によって関節液が異常に分泌されると、膝に水がたまることもあります。
関節リウマチ
関節内にある滑膜という組織は、関節液を作り出したり、関節の空間を埋めて安定させたりする役割を果たしています。何らかの原因で自己免疫が異常をきたし、健康な滑膜も異物として攻撃してしまう疾患が関節リウマチです。
膝関節に限定されるわけではなく、全身の関節に炎症が起きるのが特徴。炎症が続くと滑膜や軟骨といった組織が破壊され、痛みを伴いながら関節は変形していきます。動かすことができなくなり、寝たきりや車椅子での生活を余儀なくされることもあります。
膝の関節炎で特に要注意「変形性膝関節症」
ここまで読み進めた方には「スポーツ中の接触や着地、交通事故で受傷したわけではない」という方もいるのでは? それなら「変形性膝関節症」による関節炎の可能性もあります。これは、潜在的な患者を含めると2400万人以上もの日本人が患っているとされる疾患です。
変形性膝関節症の症状
変形性膝関節症の症状は次のようなものが代表的。思い当たるものはありませんか?
膝のこわばり
膝がこわばるとは、換言すれば違和感。固まったような感覚を覚えることが多いでしょう。
動き始めの痛み
立ち上がったときや歩き始めたときに痛みを感じます。
膝が伸びない
膝が真っすぐ伸ばしにくくなります。
階段での膝の痛み
階段で膝関節にかかる負担は、体重の3.2倍ほど。こうした負荷がつらく感じるようになります。
正座がしづらい
膝の可動域(動く範囲)が狭くなり、正座がしにくくなります。
膝で音がする
膝を曲げ伸ばししたときに、ポキポキやミシミシ、ガリガリといった音が鳴ります。
膝に水がたまる
膝に水がたまり、触るとブヨブヨするようになります。腫れて熱を持つ場合もあるでしょう。
変形性膝関節症の原因
何が原因となって、変形性膝関節症を発症してしまうのでしょうか? スポーツや事故で膝を痛めた、といたことに思い当たらない場合は、次の項目をチェックしてみましょう。思い当たれば、変形性膝関節症を発症している可能性が高いかもしれません。
加齢
老化に伴う筋力の衰えや軟骨の弾力低下により、膝関節へかかる負担が大きくなることで、変形性膝関節症を発症しやすくなります。
筋力の低下
膝にかかる負担をカバーしているのが筋肉です。高齢者に限らず、膝周辺の筋肉が衰えると、変形性膝関節症の発症リスクが高まります。
膝を酷使する活動
スポーツや仕事などで、膝に過度な負担をかけ続けてしまった記憶はありませんか? 大きなけがを負っていなくても、膝を酷使することは変形性膝関節症の原因になると考えられます。
肥満
膝関節には、直立時に体重の約2.5倍、階段昇降時には約3.2倍〜約3.5倍の負荷がかかります。体重が重くなればなるほど膝関節にかかる負担も大きくなり、変形性膝関節症へつながりやすくなるのです。体重が5キロ増加するごとに、変形性膝関節症が進行する可能性が36%高まる、という報告もあります。
【出典】
Obesity and osteoarthritis. Lementowski PW, Zelicof SB Am J Orthop (Belle Mead NJ). 2008 Mar; 37(3):148-51.
O脚・X脚
O脚やX脚は、膝にかかる重心のバランスが崩れている状態。膝関節の片側(O脚は膝の内側、X脚は膝の外側)にかかる負担が増えて硝子軟骨がすり減ることで、膝関節が変形しやすくなるのです。日本人にはX脚よりO脚のほうが多いため、膝の内側の骨がぶつかり合うタイプの変形性膝関節症が多い傾向にあります。
閉経による女性ホルモンの減少
女性ホルモンには、カルシウムの吸収を促進し骨密度を上げる働きがあります。閉経に伴う女性ホルモンの減少によって、骨密度は低下。骨は脆弱になり、結果として変形性膝関節症を発症してしまうことがあります。
変形性膝関節症による膝の関節炎
この疾患を変形性膝関節炎と呼んでいる人もチラホラ。たしかに炎症は起こるのですが、正式な病名は、変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)です。
膝関節を形成するのは、大腿骨と脛骨。その二つの骨が向かい合った表面には硝子軟骨(しょうしなんこつ)があり、外部からの衝撃を吸収したり、膝の動きを滑らかにしたりする役割を果たしています。この軟骨がすり減ると、大腿骨と脛骨が直接ぶつかり合って炎症は悪化し、神経を刺激することで痛みが生じるのです。それが膝に生じる関節炎の正体です。
膝の関節炎は治らない?
靭帯や半月板の損傷、変形性膝関節症などによって生じる膝の関節炎は、投薬により抑えることが可能です。しかし厄介なのは、変形性膝関節症という病気の場合。炎症を抑えて痛みを改善することはできても、現在の治療ではすり減った軟骨が再生することはなく、病気自体を完治させることはできません。靭帯や半月板の損傷と異なり進行性の病気であるということも、変形性膝関節症の注意すべき点です。
変形性膝関節症の進行度(グレード)
変形性膝関節症には、その進行度を表す「グレード」と呼ばれる4段階の指標があり、X線(レントゲン)画像によって診断されます。
変形性膝関節症は画像左から右へ、次のような段階で進行します。
- グレード1……関節裂隙(かんせつれつげき※)は保持されているが、わずかな骨棘(こつきょく※)が見られる、変形性膝関節症の予備軍です。
- グレード2……関節裂隙が25%ほど消失。わずかな骨棘が見られるが骨の変形はない、変形性膝関節症の初期段階です。
- グレード3……関節裂隙が50%~70%ほど消失。骨棘や骨硬化(こつこうか※)が確認できる、変形性膝関節症の進行期段階です。
- グレード4……関節裂隙が75%ほど消失。大腿骨と脛骨がぶつかり合って骨が大きく変形する、変形性膝関節症の末期段階です。
※1:関節裂隙(かんせつれつげき)……大腿骨と脛骨の間の空間
※2:骨棘(こつきょく)……骨がとげのようになった状態
※3:骨硬化(こつこうか)……骨と骨がぶつかり合って硬くなること
変形性膝関節症の治療で気になるポイント
進行性の変形性膝関節症。どのように治療するの? と気なっている人が多いのではないでしょうか? ここからは変形性膝関節症の治療の段階を追って、気になるポイントをチェックしてみましょう。
変形性膝関節症の原因が肥満なら、ダイエットが効果的?
ダイエットは効果的です。肥満は変形性膝関節症の立派な原因。そのため、変形性膝関節症の患者で太っている人は、まず痩せることが治療のスタートと言ってもよいでしょう。近年の実験では、減量すればするほど膝の痛みが軽減されるという報告も。肥満が原因の変形性膝関節症は、ダイエットによって症状の緩和が可能なのです。
ただし、無理なダイエットは筋力の低下を招き逆効果になることも。「減量すればするほど…」とはお話しましたが、医師や専門家と相談の上、適切に減量するようにしてください。
【参考文献】
米ウェイクフォレスト大学健康運動科学部門 研究グループ「食事療法と運動療法の有効性を検証するランダム化比較試験(Intensive Diet and Exercise for Arthritis)試験」
サプリメントは変形性膝関節症に効果的?
グルコサミンやコンドロイチンなどのサプリメントには、変形性膝関節症の症状を改善したり、発症を予防したりする効果はなく、軟骨を保護する作用もない、という報告があります。効果があるように感じるのは、ほとんどがプラセボ効果であるというのが定説です。
ひざ痛チャンネルでも以前、グルコサミンサプリメントの効果の真相について特集したことがあります。気になる方はそちらの記事もチェックしてみてくださいね。
【出典】
「Wandel S, et al. Effects of glucosamine, chondroitin, or placebo in patients with osteoarthritis of hip or knee: network meta-analysis.」 BMJ. 2010
変形性膝関節症の痛みに鎮痛薬は効果的?
ロキソニンやバファリンなど、消炎鎮痛作用を持つ薬を使ったことがある人も多いでしょう。鎮痛薬は、痛みの原因である炎症を抑えたり、痛みの神経をブロックすることを目的として行っている治療です。変形性膝関節症を根本から治療するものではありませんが、炎症を抑えることで痛みを緩和することは可能です。
処方されることが多いのが、NSAIDs(エヌセイズ)と呼ばれる非ステロイド性抗炎症薬。痛みの原因である炎症の抑制に優れた効果を示します。十分な効果を得られない場合は、NSAIDsの長期投与による副作用を回避するため投与を中止し、オピオイドやトラムセットといった、やや強めの鎮痛薬が処方されることがあります。
ただし、鎮痛薬の効果が感じられないのは、変形性膝関節症が進行しているから、ということも考えられます。漫然と投薬を続けられて不安を感じるような場合は、セカンドオピニオンを求め他の病院を受診するのも一つの手段です。
ヒアルロン酸注射は、変形性膝関節症に効果的?
膝の痛みにヒアルロン酸注射、と聞いたことがある人も多いのではないでしょうか? ヒアルロン酸注射には抗炎症作用があり、鎮痛薬同様に痛みの緩和を期待して行っています。元来、膝関節を満たす関節液にはヒアルロン酸が含まれており、膝の滑らかな動きをサポートする役割を果たしているのです。しかし、ヒアルロン酸は加齢や変形性膝関節症によって減少。膝関節の動きが悪くなったり、抗炎症作用が働かず膝の痛みが増したりしてしまうのです。
これを緩和するため、ヒアルロン酸を関節内へ直接注射する治療がしばしば行われます。頻度としては、週に一度の注射を3〜5週間継続することが多いでしょう。その後は効果に応じて、2〜4週間に1回のペースで行われるのが一般的です。ただし、効果を感じられないのにヒアルロン酸注射を受け続けるのは避けたほうがよいでしょう。保険適用とはいえ、費用面でも負担となるのは事実です。
変形性膝関節症で膝に水がたまっている場合、どうすべき?
膝にたまる水の正体は、関節内の滑膜から分泌される滑液。炎症を起こした滑膜は、滑液を異常に分泌させます。これがたまると、ブヨブヨとした水たまりができるのです。
この水は、注射器を使って抜くのも治療の一つ。圧迫されていた血液が元に戻るため、腫れが治まり、痛みが引くことが期待できます。ただし、元々の炎症を抑えなければ、再び水がたまってしまい、その水を抜く、という繰り返しに。「水を抜くとクセになる」と言われるのはそのためですが、実際には「クセになる」といったことはありません。水を抜いた後は、その原因である炎症にきちんとアプローチして治療する必要があります。
変形性膝関節症の人は運動してはいけない?
変形性膝関節症になったら運動してはいけない、ということはありません。変形性膝関節症の治療効果や方針を示すガイドラインも運動療法を推奨しており、むしろ効果的とも言えるでしょう。とりわけ、太もも前側にある大腿四頭筋のトレーニングを適切に行うことで、膝の状態を改善できるとされています。
ただし、運動が効果的だからと激しいスポーツを行うことは禁物。膝関節に炎症が起きているような場合は特に注意しましょう。「膝関節に負荷をかけず太ももを鍛えることなんてできるの?」と思う人もいるかもしれませんが、方法はきちんとあるのです。運動療法について、詳しくは「変形性膝関節症にはこの運動を!目的別の4トレーニングを動画解説」にまとめてあります。
どの治療でも効果がない場合、どうすべき?
鎮痛剤やヒアルロン酸注射、運動といった、手術ではない治療法(保存療法)を6ヶ月継続しても症状の改善が見られない、膝関節の変形が悪化してしまった、といった場合、手術による治療が検討されます。どの治療にも同様ですが、手術にもメリットやデメリットは存在するため、医師と綿密に話し合い、理解した上で手術を受けましょう。手術について、詳しくは「【変形性膝関節症の3大手術】気になる費用や入院期間も徹底分析!」にまとめてあります。
また、手術に抵抗がある場合は、メスを入れない「再生医療」という最新の治療法も登場しています。気になる方は「【変形性膝関節症3つの最新治療】患者が語る再生医療の効果とは?」をチェックしてみてください。
変形性膝関節症の治療は一刻も早くスタート
スポーツや事故によって生じたものでなければ、膝の関節炎は変形性膝関節症の可能性が高いと言えるでしょう。進行して手術という方法しか残されていない……といったことを防ぐためにも、疑問点は早めに解消し、適切な治療を始めましょう。