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LAエンゼルスの大谷翔平選手が、日本時間の7月4日に行われたマリナーズ戦で復帰しました。結果、4−1でエンゼルスが敗れ、大谷選手も4打数無安打、3三振ではありましたが、試合が行われるセコ・フィールドに訪れたファンからは「まさか見れるなんて」と驚きの声が出ていたとか。米メディアもエンゼルスが大谷復帰を発表すると同時に、続々と報道しました。それもそのはず、6月8日にグレード2の靭帯損傷でDLリスト(故障者リスト)入りしてから、約1ヵ月。このスピード復帰を可能にした要因はなんだったのでしょう?
大谷選手が受けたPRP治療や幹細胞注射とは何なのか、再生医療での治療も行っている整形外科医が、要点をわかりやすく整理するとともに、その理由についても推測してお話します。
大谷翔平選手がスピード復帰した2つの要因
冒頭でも触れたように、DLリスト入りとなった段階では「7月中旬のオールスター出場は絶望的」「早くて7月に戻れるかどうか」と噂されていた大谷翔平選手。それが7月4日ですから、まさにスピード復帰と言えるでしょう。
それがなぜ可能だったか。これには2つの理由を想像します。
理由1:大谷翔平選手が二刀流だった
まずひとつ目の理由としては、大谷翔平選手が投手と打者、どちらもこなす二刀流だったことが上げられます。右ひじ内側側副靭帯の損傷ということで、もし大谷選手がひじに直接負担のかかる投手専門であれば、今回の復帰はなかったでしょう。ただ、大谷選手は打者としても試合出場が可能。左打ちの大谷選手なら、ノースローでDHに徹すれば、ひじへの負担はそれほどかからないと考えられます。
実際、電話会見でも記者からバッティングによるひじへの影響は多く質問が出たようですが、エンゼルスGMのエプラー氏がドクターに何度も確認し、問題ないという結論に至ったそうです。
理由2:PRP治療と幹細胞注射を選択していた
大谷翔平選手が選んだのは、PRP治療と幹細胞注射。どちらもひじを切らない注射で完結する温存療法。そこに、ふたつ目の理由があると考えます。どんな治療法か、簡単にお話しておきましょう。
PRP治療とは?
PRP治療をひとことで言うと「自分の血液を活用した再生医療」。血液に含まれる傷の修復作用を持つ血小板を濃縮して患部に注入することで、細胞分裂など傷の修復を促す成分を分泌し作用させるという治療法です。
2014年にヤンキース投手の田中将大選手が受けたことで知った人も多いかもしれませんね。田中選手や大谷選手の他も、スポーツ選手の治療が報道されることが多いため、スポーツ外傷の治療法というイメージが一般的にはあるかもしれません。でも実は、膝関節の治療にも効果を発揮することが分かっているんです。変形性膝関節症の治療法としても用いられていて、少し前にはテレビ番組でも紹介され、とても注目を集めていました。当院ではPRPを濃縮したものを注入するPRP-FD注射を行っていますが、この治療法への問い合わせも急増したほど。関心の高さを肌で感じました。
さらに詳しい情報は「PRP療法の効果は?受けられる病院は?治療情報の総まとめ」をご覧ください。
幹細胞治療とは?
幹細胞とは、様々な細胞に分化(成長)できる、言わば細胞の赤ちゃん。iPS細胞も幹細胞のひとつです。iPS細胞は人工的につくるものですが、幹細胞はヒトの身体の中にも自然に存在しています。例えば、骨髄や脂肪の中に、造血幹細胞や脂肪幹細胞なるものがそう。大谷翔平選手がどの幹細胞を活用したかは公にはされていませんが、ひざ痛チャンネルでは、脂肪幹細胞ではないかと考えています。
その理由は3つ。ひとつは、脂肪は採血のような要領で採取可能なので、部分麻酔で入院の必要もなく、とても負担の少ない治療法ということ。ふたつ目は、脂肪から抽出できる幹細胞量が骨髄からの約500倍という報告があるということ(※1)。つまり、低負担で多くの幹細胞を得られるのです。そして最後の理由が、胚性幹細胞(受精卵の内部細胞を培養してつくる幹細胞)、造血幹細胞、脂肪幹細胞でマウスの背中の傷の治癒状況を調査したら、脂肪幹細胞がもっとも早く治りもきれいだったという報告があること(※2)。あくまで推測の域に過ぎませんが、大谷選手のようなトップアスリートにとってにのメリットが多いのです。そんな脂肪幹細胞の治療では、抗炎症作用や疼痛抑制作用が認められています。
脂肪幹細胞治療については「【変形性膝関節症3つの最新治療】患者が語る再生医療の効果とは?」で体験談などもご紹介しています。
【参考文献】
※1「Japanese Journal of Transfusion and Cell Therapy」中山享之ら Vol.59 No.3 59(3):450―456, 2013
※2「Direct comparison of the potency of human mesenchymal stem cells derived from amnion tissue, bone marrow and adipose tissue at inducing dermal fibroblast responses to cutaneous wounds」XIAOYU LIU, et.al. International Journal of Molecular Medicine 31: 407-415, 2013
手術回避が生んだ大谷翔平選手のスピード復帰
今回は、あくまで打者としての復帰です。先にも言ったように、ひじへの負担が少ない打者だからこそ。つまり、PRP治療や幹細胞注射の作用があってのものとは言い切れません。ただし、ひじを切開するトミー・ジョン手術は復帰まで1年はかかると言われる治療法。もしこの手術を選択していたなら、今回の打者としての復帰すらありませんでした。
もちろんスピード復帰の裏には、6月上旬段階ではア・リーグ西地区で3位(首位から3ゲーム差)につけていたエンゼルスがその後に大失速、今ではプレーオフ出場が厳しくなってきているというチーム事情もあるでしょう。ただ、何度も言うようですがPRP治療や幹細胞注射という温存治療でなければ、大谷選手という切り札をチームが投入することもできなかったわけです。そういう意味でも、再生医療という新しい選択肢によって結果が違ってくるということを実感することになった出来事でした。