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PRP療法とは、近年アスリートのスポーツ障害に対して急速に広まっている治療法。なぜなら、受傷後早期に競技復帰が可能になるという効果が期待されているからです。最近だと、予防措置としてエンゼルス(MLB)への移籍が決定した大谷翔平投手が10月にPRP療法を受けていたことが話題となりましたね。さらに言うと、アスリートだけでなく、変形性膝関節症などの一般的な膝の痛みをPRPで治療することもあるんですよ。
とは言うものの、PRPっていったい何? 実際にはどのような効果が確認されているの? 今回はそんな疑問を解消しましょう。国内外の文献を軸に、PRP療法について解説します!
PRP療法とは
PRPとは「Plate rich plasma」の略称で、日本語にすると多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう)と言います。血小板が豊富な血漿(血液中の液体成分)は細胞レベルでの治癒を促進する可能性があると、1970年代からヒトにおいて臨床的に使用されるようになった自己血液を利用した治療法です。
現在までに、整形外科領域では筋肉・腱損傷、靱帯損傷、軟骨損傷、変形性関節症などに活用。また、歯科インプラントや傷跡再生、小ジワ改善、薄毛治療など、歯科や美容形成の分野でも広く使用されています。
PRP療法の歴史
PRP療法が一般に広く認知されるようになったのは、有名スポーツ選手に対して使用され、それが報道されてからでしょう。
日本で知られるようになったのは、ヤンキースの田中投手が2014年に治療を受けたニュースがきっかけかと思いますが、アメリカではさらにさかのぼり2009年。アメリカ最大のスポーツイベントであるスーパーボウルへの出場を目指していたピッツバーグ・スティーラーズのエースWRのハインズ・ウォードが治療を受けたことが大きな話題となりました。彼はスーパーボウル1か月前のボルチモア・レイブンズ戦で右ひざを痛め途中退場するケガを負いましたが、PRP療法を受けてスーパーボウルにはスターターとして復帰。チームを牽引し3年ぶりの王座奪還に貢献しました。
その後も、ゴルフ界ではタイガー・ウッズが、バスケットボールではコーヴィー・ブライアントが膝の手術後にPRPを使用し、ゲームへの早期復帰をしたという例も聞かれています。
2013年における米国内整形外科関連でのPRP療法は86,000回以上。米国におけるPRP市場は2009年に4500万ドル、そして2016年には125百万ドルとますます広がっています。
【出典】
「Platelet-Rich Plasma; From Basic Science to Clinical Applications」The American Journal of Sports Medicine, Vol. 37, No. 11
Slide Share; PRP Update: From basic science to clinical application/Dr. John Klimkiewicz, Washington Orthopaedics and Sports Medicine.
PRP療法はドーピングにならないのか?
WADA(ワールド・アンチ・ドーピング・エージェンシー)リストによると、PRP療法は禁止されていません。PRPはあくまで障害前の機能レベルに回復をさせるもので、それ以上の力を発揮させるものではないというのが理由のようです。
※ただし、精製した個々の成長因子を使用する場合には、ドーピングに該当する可能性もあります。
【出典】
「Platelet derived preparations (PRP) are not prohibited. Despite the presence of some growth factors, platelet-derived preparations were removed from the Prohibited List as recent studies on PRP do not demonstrate any performance enhancement beyond a potential therapeutic effect.」WADA Prohibited List Jan. 2017
PRP療法の作用メカニズム
血小板は通常ヒト血液中1mlに、1.5億~4億個ほど存在しています。PRPは自己血液を遠心分離することで、この血小板を豊富に含んだ血漿を活用(患部に注射器で注入)する治療法です。作成されたPRPに含まれる成長因子は、通常の3〜5倍の濃度。すなわちPRPは、自己血液中に存在する成長因子の濃縮ジュースのような物と言えるでしょう。
この高濃度の成長因子は、血小板を活性化させることで患部に放出され局所に作用。これにより組織再生や創傷治癒の促進が起こると期待されています。
【出典】
「PRPの基礎理論/多血小板血漿(PRP)療法入門」覚道奈津子/全日本病院出版会 2010
PRPに含まれる成長因子
血小板は止血に重要な役割を果たす核のない直径2〜3㎛(マイクロメーター:1㎛=1/1,000mm)、厚さ0.5㎛の円板系の血液細胞です。
組織が損傷し出血が生じると、血液は凝固して止血が行われます。止血の中心となるのが血小板であることは皆さんご存知でしょう。この血小板が凝固する際に、実は様々な成長因子が放出されているのです。この成長因子によって、身体が元々備えている自然な治癒反応が促進されるため、腱・靱帯・軟骨などの運動器組織の再生に重要な役割を示すことが分かっています。
【出典】
金森章ほか「スポーツ外傷・障害に対する多血小板血漿治療の適応と実際」金森章ほか J MOS 69: 11-18; 2013
血小板由来成長因子(PDGF)
- 血管新生、細胞増殖、マクロファージの活性化、コラーゲンの合成
- 血管形成、上皮形成、肉芽組織形成を促進
血管内皮成長因子(VEGF)
- 血管形成を促進、血管内皮細胞増殖
形質転換成長因子(TGF-β)
- 細胞外マトリックス形成を促進
- 骨細胞の代謝を調節
線維芽細胞増殖因子(FGF)
- 筋細胞の増殖、
- 血管新生、血管形成の刺激
上皮増殖因子(EGF)
- 幹細胞の増殖、他の成長因子の効果増強
【出典】
「Platelet-rich plasma療法の基礎」青戸克哉ほか 整・災害 57: 965-970; 2014
PRPには種類がある
一概にPRP療法と言っても、多種多様な作成医療機器が販売されており、作成方法によっては次の3つの点で成分が大きく異なることがあります。ただ、現時点で成分の違いが膝の痛みなどの治療結果を左右するという見解は得られていません。
血小板数
血液の血小板濃度は平均して22万個/㎕(マイクロリットル:1㎕=1/1,000ml)程度です。PRPの場合、名前が“多血小板”だけに、少なくとも通常の血液よりも血小板が高濃度なのですが、では濃度が高いほど良いのでしょうか?
最適な血小板濃度というのはまだ明らかになっていませんが、一般的に血小板の濃縮率が通常の血液の2~6倍であれば、PRPとしての効果が得られるとされています。ただ一方では、血小板濃縮率が6倍を超えると逆に組織治癒の妨げとなる報告も……。つまり、必ずしも高濃度のPRPが組織修復に良好な結果をもたらすとは言い切れないのです。
血小板の活性方法
PRPの作用メカニズムの項目で、成長因子は血小板が活性化することによって放出されると説明しましたが、その方法には2パターンあります。ひとつは、強制的に活性化させる成分を加えてから患部に投与する、外因性と呼ばれる方法。もうひとつは、体内に注入した後でコラーゲンやカルシウムとの接触によって活性化する内因性と呼ばれる方法です。
どちらもそれぞれの長所があり、手術や注射の方法の違いによって使い分けることもできます。
白血球の有無
血液を遠心分離にかけると、シリンジ内でそれぞれの成分に層分けされます。このとき、白血球層を採取するかどうかによって、白血球濃度の違いが生まれるのです。
白血球濃度の違いによる有効性の違いについてはまだ議論が終結を迎えていませんが、PRP注入後の初期に炎症が引き起こされ、マイナスに働くとの報告もあります。一方で成長因子や酵素の重要な供給源であるため、ブドウ糖や大腸菌の成長を邪魔する抗菌作用が得られるとの報告もあります。
変形膝関節症に対するPRP療法
靭帯や筋肉などの組織への有効性は認められており、アスリートたちの間では一般的な治療法になりつつあるPRP療法ですが、関節内の治療についてはどうなのでしょうか。これに関しては、スペイン、イタリア、インドから変形性膝関節症に対する臨床試験の結果が報告されています。
変形性膝関節症への有効性が期待できる臨床試験結果
変形性膝関節症に対するPRP療法の臨床試験における注射回数は、1週間間隔で3もしくは4回。1回注射、または3週間間隔での2回注射というルールで行われました。1回あたりの注入量は5〜8ml。これをヒアルロン酸注射と比較したものになります。
結果は、4人の報告者のうち1人を除く3人の報告において、24週までの経過での変形性膝関節症に対するPRP療法の有効性が示唆されていました。PRPの注射によって膝関節内でヒアルロン酸は産生され増加。一方、炎症を引き起こすよう働く種類のサイトカイン(免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質)は減少していると思われます。この結果、膝の痛みの軽減につながったのでしょう。
ただ、一部で疼痛や炎症による腫れが見られたとのこと。この原因としては、白血球を含有するPRPの使用や塩化カルシウムの添加などの関与が示唆されていました。
【出典】
「変形性膝関節症に対する多血小板血漿関節内注射治療」吉岡友和ほか 整・災害 57: 91001-1009; 2014
国内でのPRP療法と再生医療法
日本におけるPRP療法は保険診療としては認定されておらず、自由診療として医師の裁量で行われてきました。現在も自由診療という点では同じなのですが、2014年11月に施行された「再生医療等安全性確保法」の対象となったことで、状況は少し変わります。臨床研究のみならず自由診療の場合にも、再生医療等委員会の審査を受け、厚生労大臣に治療計画を提出するなどしなければ、治療を提供することはできません。
有効な結果が多数得られているだけに、こういった法による規制で先進的な医療の安全性を確保することも必要なのかもしれません。ただ、これにより多くの信用に値するエビデンスが日本国内でも蓄積されていくことが今後期待されます。
【出典】
「整形外科領域における再生医療の最前線」金森章ほか 関節外科 34,5 495-500; 2015
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